経産省のものづくり補助金で製造業の未来を切り拓く事例を紹介
公開:2024.07.24 更新:2024.07.24経産省のものづくり補助金は、小規模・中規模事業者の生産性向上を目的とした補助金制度です。この補助金は、製品開発や生産プロセス改善に必要な設備導入費用をサポートし、一定の条件を満たす事業者が受けられます。
具体例として、有限会社伊藤畜産は、補助金を利用して肉用冷蔵庫の増設や食肉加工機械の導入を行い、生産の効率化と新製品の開発に成功しました。
また、株式会社東北ハムは補助金で生ハム製造技術を確立し、世界最大の食品競技会で金賞を受賞しました。これらの事例から、補助金の効果的活用が事業成長につながることがわかります。
目次
経産省の制度ものづくり補助金とは
いくつかの要件を満たすことにより、経産省の制度のひとつであるものづくり補助金を受けられる可能性があります。こちらでは、2024年7月時点の情報に基づいて、ものづくり補助金およびそれで導入できる設備について解説します。
◇ものづくり補助金とは
経済産業省中小企業庁が主導で行っている小規模・中規模事業者向けの補助金制度で、正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。
サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善などを実現するために、設備などの導入を必要とする企業に向けて、これらの費用を軽減するべく補助金を支給します。ただし、補助金を受けるには、規定の要件を満たしたうえで採択される必要があります。
また、ものづくり補助金は、「一般型(通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠、グリーン枠)」「グローバル展開型」「ビジネスモデル構築型」といった枠に分類されており、受け取れる補助金の上限金額は枠によって異なります。
引用元:全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金総合サイト」
◇補助金で導入できる設備
食品事業者が補助金で導入できる設備について、詳細は公表されていませんが、さまざまな設備が対象になりえると言われています。例えば食品調理機、食品洗浄機、ベルトコンベアー、製麺機、充填機、食品生産や温度などを管理するシステムなどです。
過去には、小ロット生産向け小型バウムクーヘンオーブンの導入や、超低糖度ジャムや柚子ピールの開発に必要とされる設備投資が採択されています。
補助金採択のポイントを詳しく解説
ものづくり補助金を申請した企業のうち、実際に補助金を受けられる割合は30~50%ほどといわれています。返済する必要のない補助金の受け取りは決して簡単ではないため、専門家からのアドバイスを受け、利益を上げる事業計画書づくりが大切です。
こちらでは、補助金採択のポイントについて解説します。
◇利益を上げる事業計画書づくり
ものづくり補助金では事業計画書を提出しなければなりません。事業計画書が採択されるためには、公募要領に記載されている審査項目を満たす必要があります。
事業計画書を採択されたいからとはいえ、身の丈に合わない、実現性の低い計画では意味がありません。自社の強みや弱み、経営状況、競合他社の分析などを行い、実現性の高い事業計画書づくりが大切です。
また、ものづくり補助金には「成長性加点」や「政策加点」といった項目があり、これらを満たすと採択される可能性がより高まります。
◇専門家のアドバイスを受ける
ものづくり補助金について、不明な点などがある場合は専門家(よろず支援拠点、商工会議所、商工会)にアドバイスを仰ぐとよいでしょう。
これらの専門家は事業計画のアドバイスや事業計画書づくりのサポートを行う立場です。そのため、実際に事業計画書づくりを行う際は申請を行う事業者の方の責任で作成する必要があります。
有限会社伊藤畜産の補助金導入事例
有限会社伊藤畜産は、北海道根室市に本社を構え、生乳や家畜、牧草の生産販売、体験牧場の企画運営、地元の食材を活用したレストラン運営などを行っています。こちらでは、有限会社伊藤畜産の補助金導入事例についてご紹介します。
◇肉の保管設備が不足
有限会社伊藤畜産では、屠畜された肉をストックする大型冷蔵庫が不足していました。保管場所がないため肉牛が育っても新たに食肉にできず、生産に遅れが出てしまいます。そこで補助金を活用して肉用冷蔵庫を2台購入し、保管可能な容量を倍増させました。
また、従来は肉の加工を手作業で行っていましたが、補助金を活用してスライサーを導入し、食肉加工の幅を広げます。さらに牛乳の加温殺菌気を導入し、品質の高い生乳を清算できるようになったのです。
これらの新設備により、生産安定化および良質な原料を活かした新製品の開発に成功しました。
◇設備導入で新製品も開発
スライサーの導入に伴い、しゃぶしゃぶ肉を商品化したところ、特産の竿前昆布とセットで根室市のふるさと納税返礼品に採用されました。また、札幌市の人気コーヒー店では、有限会社伊藤畜産が運営している伊藤牧場の名前が付いた「伊藤牧場の牛乳」が新たに誕生しています。
設備機器類の導入前は季節ごとに仕事量にばらつきがありましたが、閑散期に冷凍食品の製造や新製品の開発を行うことにより、事業の安定につながったとされています。
補助金で生ハム製造技術を確立した事例
株式会社東北ハムは、山形県鶴岡市に本社を構え、加工肉製品、乳製品、油脂製品などの製造販売を行っています。こちらでは、株式会社東北ハムの補助金導入事例についてご紹介します。
◇設備導入で商品化
株式会社東北ハムでは、既存の設備では加熱加工はできても、非加熱加工が難しかったため、生ハムの製造を中断していました。しかし、顧客から要望のあった生ハムの商品化を再開するために、自動スライサー、充填機、冷蔵庫などを補助金制度で導入しました。
さらに、生ハムの成分を分析し、味や舌触りといった五感による試験を通して品質を高めていき、世界から高く評価される長期熟成生ハムを誕生させました。
◇コンテストで受賞
設備の導入で完成させた長期熟成生ハムは、試験結果において特に女性から高い評価を得ました。そこで庄内プロシュート「ノービレ」として商品化させると、発売したその年度で世界最大の食品競技会であるDLG食品競技会で最高賞の金賞を受賞しています。
経済産業省が提供するものづくり補助金は、生産性を向上させたい中小規模の事業者を支援するための制度です。この補助金を活用することで、企業は新しい製品開発や生産プロセスの改善に必要な設備の導入費用を抑えることができます。
例えば、有限会社伊藤畜産はこの補助金を利用して大型冷蔵庫を追加し、食肉加工の効率化を図るとともに、新製品の開発を推進しました。この投資により、製品の品質向上と生産の安定化が実現し、地域経済にも貢献しています。
一方、株式会社東北ハムは補助金を利用して生ハムの製造設備を導入し、非加熱加工の技術を確立。これにより、高品質な長期熟成生ハムを開発し、国際的な食品競技会で金賞を受賞しました。この成功事例は、補助金がいかにして事業拡大とブランド価値の向上に寄与するかを示しています。
ものづくり補助金を活用する際は、専門家のアドバイスを受けながら、現実的かつ実現可能な事業計画を策定することが重要です。補助金のポイントを理解し、戦略的に活用することで、事業者は技術革新を遂げ、市場での競争力を高めることが可能になります。