労働安全衛生規則の改定理由とは?食品加工機器に関する変更点
公開:2024.05.31 更新:2024.06.04業務用の食品加工機器による労働災害が多発し、労働環境に深刻な影響を与えていることから、労働安全衛生規則が改定され、機械の危険な部分への覆いの設置や運転停止の義務化などの安全対策が導入されました。
労働安全衛生規則の改定では、食品加工機器への対策や、機械の運転停止義務などによる労働者の安全確保が求められています。改定により、食品加工用機械による労働災害が減少したものの、古い機械の使用や安全対策の不足など、さらなる課題が浮き彫りになりました。
資本力の不足や中小企業の事情を考慮した対策が求められており、安全対策の強化や支援策の提供、作業員への安全教育の充実などが必要とされています。
目次
食品加工機器は事故が多い!労働安全衛生規則の改定
業務用食品加工機器による事故が多発しており、その深刻さが労働環境において大きな問題となっています。このような状況を受けて、労働安全衛生規則が改定され、機械の危険な部分への覆いの設置や運転停止の義務化などの具体的な安全対策が導入されました。
これにより、労働災害の減少と労働者の安全確保が期待されています。
◇食品加工機器による事故が多発
厚生労働省の資料によると、平成15年~平成24年に食品加工用機械による休業4日以上の労働災害が年間約2,000件発生しており、この数は動力機械の分類の中で最も多くなっています。このことから、食品加工用機械は機械災害防止対策において重要な対象となっています。
機械の種類別に見ると、休業災害では野菜・果物加工機械(22.6%)、肉類加工機械(18.1%)、水産加工機械(11.5%)が多く、これら3種類の機械で全体の半数以上を占めています。
死亡災害では、特に製麺機械による事故が多く18.8%を占めており、製菓機械でも13.0%が発生しています。具体的には、製麺機械のミキサーや製菓機械の練り機、野菜・果物加工機械のミキサー・混練機・粉砕機などで事故が多発しています。
引用元:厚生労働省
◇労働安全衛生規則が改定された理由
労働安全衛生規則が改定された理由は、食品加工用機械による労働災害が多発しているためです。食品加工用機械での労働災害は、他の産業機械による労働災害に比べて非常に多くありました。それだけでなく、災害内容も、身体に障害が残る可能性があるものが多かったのです。
このような深刻な背景から、労働災害の発生件数を減少させ、労働者の安全と健康を守るために、より効率的な安全対策をとして老像安全衛生規則が改定されました。
食品加工機器による労働者災害状況は深刻?
安全衛生情報センターの安全衛生情報センターが調査した資料によれば、食料品製造業は他の産業と比較して著しく高い死亡災害および休業災害の発生率を示しています。
特に死亡災害に関しては、全体の92.8%が食料品製造業で発生しており、非常に多くの割合を占めているのです。特に加工・包装・選別作業や清掃・除去作業において多くの災害が発生しています。
引用元:厚生労働省 安全衛生情報センター
◇死亡災害のほとんどは食料品製造業
食料品製造業で発生した死亡災害の内訳においては、パン菓子製造業で14件(20.3%)、その他の食料品製造業で34件(49.3%)でした。
一方で第三次産業である小売業等では、これらの災害発生率は非常に低いことがわかります。また、休業災害についても、小売業では1件(1.4%)と非常に少ない結果でした。
このように比較すると、食料品製造業における死亡災害の多さが顕著です。
◇休業災害も多い
休業災害全体の発生件数を見てみると、食料品製造業での休業災害は984件(66.2%)と、全体の約3分の2を占めています。一方、小売業等の第三次産業では465件(31.3%)が報告されており、食料品製造業が主要な発生源であることが明らかです。
作業の種類別に見ると、食品加工作業のほか、清掃・除去などの非定常作業も多くの休業災害を引き起こしています。具体的には、「加工・包装・選別」が751件(50.5%)、「清掃・除去」が537件(36.1%)と、この2つの作業が全体の約9割を占めているのです。
食料品製造業では食品加工用機械を扱う作業が多く、事故が発生しやすい環境にあるため、休業災害の発生件数が多いことが説明できます。
労働安全衛生規則の改定による変更点は?
食品加工業界における安全性は、業務の遂行において最優先事項です。食品加工機器の使用に際しては、労働者の安全を確保するための対策が欠かせません。
◇食品加工機器の対策
ここでは労働安全衛生規則の改定により変更された、食品加工機器への対策を紹介します。
・食品加工用切断機・切削機の対策
食品加工用の切断機や切削機には、安全性を確保するため、刃の部分以外を覆ったり囲ったりする必要があります。これには可動式のガードが含まれ、これらを取り外したり開けたりするときには、機械が起動しないようにするためのインターロック機構が望ましいです。また、光線式の安全装置も使用されます。
これらの機械への原材料の供給や取り出しの際には、危険を防止するための措置が必要です。原材料の供給が自動でない場合、労働者の安全が脅かされる可能性がある場合には、機械の動作を停止させるか、安全な用具を使用させる必要があります。
そして、用具の使用を指示された場合、労働者は必ず従わなければなりません。具体的には、機械の動く部分が届く範囲にある場合などが該当します。また、動作を停止させた後、素早く動く部分を止めるためのブレーキを備えることが望ましいです。
・食品加工用粉砕機、混合機の対策
食品加工用の粉砕機や混合機では、開口部からの転落や可動部分との接触による事故防止が極めて重要です。事業者は、転落の危険がある場合は蓋や囲い、高さ90センチメートル以上の柵を設置する必要があります。
もし設置が難しい場合は、安全帯の使用が義務付けられています。可動部分への接触の危険がある場合も同様に、蓋や囲いの設置が必要です。労働者は、これらの安全装置の使用が指示された場合は必ず従わなければなりません。
さらに、原材料の供給や取り出しを行う際の危険防止にも配慮が必要です。自動でない場合、労働者が危険にさらされる可能性がある場合は、機械の運転を停止するか、特別な用具を使用しなければなりません。具体的には、供給位置や開口部の大きさ、可動部分の位置によって労働者が接触する可能性がある場合に該当します。
・食品加工用ロール機の対策
食品加工用ロール機では、労働者の安全を確保するために、危険な部分には覆いや囲いが必要です。可動式ガードやインターロック機構を備えて覆いや囲いを外す、または開放した際に機械が起動しないようにします。
さらに、光線式安全装置や労働者が自ら操作できる急停止装置も重要です。ただし、駆動力が弱く、労働者の安全に影響がない場合は、この規制の対象外となります。
・食品加工用成形機、圧縮機の対策
食品加工用の成形機や圧縮機では、労働者が事故や怪我を避けるために、覆いや囲いの設置が必要です。これらには、可動式の保護カバーや囲いが含まれます。また、これらを取り外したり開けたりするときは、機械が起動しないようにするインターロック機構も重要です。
さらに、光線式の安全装置や両手操作式の制御装置も助けになります。ただし、機械の駆動力が弱く、労働者を傷つける危険がない場合は、この規則の対象外です。
引用元:厚生労働省
◇食品加工機器に係るその他の留意事項
食品加工機械の運用には、いくつかの重要な規定があります。まず、安全装置や覆いなどの安全措置は常に有効でなければなりません。これらの装置は労働者の安全を確保するために設けられており、取り外すことや機能を失わせる行為は危険です。
万が一、安全装置が取り外されたり機能を失ったりした場合は、労働者は速やかに事業者に報告しなければなりません。また、労働者は食品加工機器の運用に関する教育を受ける必要があります。これには、作業手順書の作成と定期的な確認も含まれます。
さらに、機械の原動機や回転軸などの部分には、覆いや囲いを設置して労働者を保護する必要があります。これらの対策は、労働者の安全を確保し、作業中の事故や怪我を防ぐために不可欠です。
引用元:厚生労働省
◇機械の運転停止義務
機械の掃除、給油、検査、修理、または調整の作業を行う際には、労働者の安全を脅かすリスクがある場合には、機械の運転を停止しなければなりません。ただし、機械の運転中にこれらの作業を行う必要がある場合でも、危険な箇所を保護する措置を施せば、運転停止は不要です。
運転停止後には、起動装置をロックし、他の労働者が機械を操作することを防止するための措置を講じなければなりません。また、調整作業には不具合を解消する、または機械を適切に設定するための作業が含まれます。これらの作業を行う際には、適切な安全教育を受けた労働者によって行われ、作業手順が明確に定められる必要があります。
引用元:厚生労働省
改定により死傷者数は減少したものの更なる課題がある?
食品加工業界における安全対策の重要性がますます浮き彫りになっています。安全衛生に関する法規制の改正や追加の安全対策の導入が行われた結果、死傷者数が著しく減少しました。
しかし、これによって解決されたわけではありません。古い機械の使用や安全対策の不足など、さらなる課題が明らかになっています。特に、資本力の不足や中小企業の事情を考慮した対策が求められています。
◇安全対策の義務化により死傷者数が減少
労働安全衛生規則が改正される前の平成24年度から改正後の平成26年度までの期間において、食品加工機械による事故件数や死傷者数は大幅に減少しました。
具体的には、改正前の期間に比べて、平成25年度から平成26年度にかけて死傷者数が129人減少し、改正前後の2年間で合計179人の死傷者減少が見られました。このデータから、安衛則の改正と追加の安全対策の導入が事故の減少に一定の効果をもたらしたと言えます。
◇さらなる対策が求められている
労働安全衛生規則の改定によって死傷者数は減少したものの、古い機械の使用や安全対策の不足が特に指摘されています。資本力の不足や中小企業の場合、機械の更新が難しく、安全装置が不十分な機械がまだ使われている状況があるのです。
また、作業員の安全ルールの順守も問題視されています。安全装置の不適切な使用や基本的な安全措置の怠りが、事故を引き起こす可能性があるからです。さらに、工学的な対策の難しさも挙げられています。1部の機械では、惰性回転中の刃物による災害への対策が難しいとの報告もあります。
これらの課題に対処するためには、古い機械の更新や安全装置の追加など、安全対策の強化が必要です。資本力の乏しい業者にも支援策を提供する必要があります。また、作業員に対する安全教育の強化や意識改革が不可欠です。
食品加工機器による労働災害が頻発し、労働環境に重大な問題をもたらしていることから、労働安全衛生規則が改定されました。この改定では、具体的な安全対策として、機械の危険部分への覆い設置や運転停止の義務化などが導入されました。これにより、労働災害の減少と労働者の安全確保が期待されています。
改定により、食品加工用機械による労働災害の件数は大幅に減少しました。しかし、依然として古い機械の使用や安全対策の不足といった課題が存在しています。特に、資本力の不足や中小企業の事情を考慮した対策が必要とされています。これらの課題に対処するためには、安全対策の強化や支援策の提供、作業員への安全教育の充実などが求められています。
食品加工機器による労働災害が頻発し、労働環境に深刻な影響を与えていることから、労働安全衛生規則が改定されました。この改定では、具体的な安全対策として、機械の危険部分への覆い設置や運転停止の義務化などが導入されました。これにより、労働災害の減少と労働者の安全確保が期待されています。
改定により、食品加工用機械による労働災害の件数は大幅に減少しました。しかし、依然として古い機械の使用や安全対策の不足といった課題が存在しています。特に、資本力の不足や中小企業の事情を考慮した対策が必要とされています。これらの課題に対処するためには、安全対策の強化や支援策の提供、作業員への安全教育の充実などが求められています。